□ 残香 □

サブタイトル(笑)    

〜静流の分析によると〜




静流は背後に感じる妖気に敏感になっていた。
だがそれは次第に薄くなり、逆にそれは霊気にかわっていく。


静流は昔から霊感といわれるものが弟よりも強く感じるほうだったと思う。
そういったものを感じることに慣れてはいたが、そういったものはとどのようなものであっても
単に自分が他の人間よりも多少”霊感が強いだけ”というふうにくくっていたが、ここ最近の経験のせいだろうか、
そこそこ見分けが付くほどに洗練されていた。
それが誰のものなのか。
どれほどの強さなのか。
それくらいのことは接触をしないまでも容易に分かる。


「静流さーん!!!」

駆け寄ってきたのは、ぼたんである。
静流は振り向き手を振る。

「ああ、なんだ。ぼたんちゃんか。誰かと思った。」

本当はそれがぼたんだということは分かっていたが、今回はちょっと感じ方が違っていた。
本人に確かめていいのかどうか、迷うところだが、今日の彼女は自身の霊気のほかに、かすかに
妖気が漂っていたからだ。

「誰かって?」
「いや、もしかしたら蔵馬君かとおもったから。」
「はぁ?・・・あ。」

ぼたんは一瞬どきりとする。
そういえば昨晩は一緒にいたのだ、彼と。
そして体にその跡が残っていてもおかしくない行為をしていたのだ。
身体に彼の妖気が残っていてもおかしくはないだろうと内心舌打ちする。

これまでにもこのようなことはあったはずなのに、今まで誰にも気づかれなかったのは蔵馬が
自分の妖気を消すことに周到だからだろう。
だとしたら今日はなぜ?

なぜ残り香が残っているのだろう?

今日のは・・・わざと?
ぼたんは瞬時に思いをめぐらす。彼がどうして残香を残したのか。
マーキングみたいなもん?・・・・まさかね。


「ねぇ。会ったばかりで聞いていいかわかんないけど。あんたたち、そーゆー関係なわけ?」

うれしいような、恥ずかしいような、でも知られたくないようなそんな感情が起き上がる。
が、この人をだませる自身はぼたんにはない。

「んー・・まぁ。ね。」

「ふーん。そっかぁ。」

”あ、なんかそっけない。”
ぼたんは静流には、蔵馬との関係について根掘り葉掘り聞かれるのかと思っていたところもあり、
拍子抜けしてしまう。

「ね、聞かないの?私たちのことをさ?」

「聞いてほしい?」

「や、そーゆーわけじゃないけど。」

自然と並んで歩く。いろいろ考えながら歩いている割に歩く速度はかわらない。
なんとなく、顔会わせては話しづらい。
静流は空を見上げて歩きながら数分の後、思い立ったように”うん”と頷く。

「・・・だってさ、相手が蔵馬くんでしょ。カズとは違うじゃん。」

ちょっとタバコ吸いたいんだけど・・という仕草を静流がジェスチャーするので、立ち話もなんだからと
通りすがりの喫茶店へ立ち寄る。
なんだか偶然会っただけなのに、自然とこういう雰囲気になれるのは、女の子特有だよね。とぼたんは
思う。男子なら、ちょっと話してすぐにバイバイだよね。などと。
乾いた音がドアごしから聞こえて、客の少ない店の奥へ二人で流れ込んだ。

「あ、あたしはアメリカンで。」
「じゃ・・じゃぁ私も同じ奴。」

「ぼたんってコーヒー得意だった?」
「大丈夫、ミルクたっぷりいれるから。静流さんこそ、用事あったんじゃないの?」
「別にー。散歩よ、散歩。」
「・・それって巡回の間違いじゃないの?」
「ちょっと、どゆことよ、それ。」

「まぁほんとのこというと、雪菜ちゃんを駅までお迎え。カズが今日抜けられないバイトだから。
本当は迎えに行かなくても帰ってこれるのは分かってんだけど、あのバカが迎えにいかないとうるさいから。
ナンパされるんじゃないかってあせってんのよ。アイツ。」

運ばれてきたコーヒーをすすりながら静流が答える。

「え!?だいじょぶなの、時間。」
「余裕余裕。雪菜ちゃんが駅に着く時間までパチンコでもして時間潰そうとおもってたとこだから。」
「ならいいんだけどさ。」


「で・・さっきの言葉の意味、わかんないよ。静流さん。」

「だから蔵馬くんだから心配ないな、ってことよ。」

「蔵馬って、蔵馬ってだけでみんなからかなり信頼されてるよね。」

「そりゃそーよ。」

”やっぱケーキも食べようかな・・”
メニューをちらっと気にしつつ、静流の言葉をまっている。

「でもね、知ってたよ。ぼたんちゃんが蔵馬君のこと、好きなことぐらいはね。」

「・・で・・ぎゃっ・・そんな・・バレバレだった?」

「いいやー。そうでもない。あたし以外はばぁちゃんくらいじゃないの?」

「そ・・そっか。」

ほっと胸をなでおろす。

「でも蔵馬君がぼたんに手を出すなんておもってなかったけどね。」

ギクリとする。
そう。
仕掛けたのはぼたんの方から。
だから彼は自分を抱いたのだ。
言葉に詰まる。
さすがにこの辺のことはいくら静流といえどなかなか言い出しにくいものだ。

「あたしはさ、妖怪と案内人の恋愛ってどんな風にこの先なっていくのか、見届けられないから心配してないよ。」

「それって・・・。」

寿命のこととか、そういうこと?

「あたしは人間だからさ、あたしが死んだ後、残った人間の心配なんてしようにもできないってことよ。まぁ
相手が蔵馬くんだからね、それほど心配なんてしてないんだ。二人の寿命がどのくらいかなんてわからないし。」

タバコに火をつけて深く吸い込んで、はき出た煙の臭いはかすかにメンソールの香りがした。

「人の気持ちなんか変わっていくものだしね。それは生きていく長さが長いほど、その気持ちを維持し続けることは
大変だとおもうわけ。」

「・・それはあたしも思ってた。この先ずっと不安だわ。でも先のことを考えていたら何もできないとも思ったの。だから・・」

「ぼたんから仕掛けたわけだ。やるじゃない〜♪」

お互いの気持ちがどこかで変わっていくのはしょうがないこと。
永遠なんて信じない。
でもその気持ちがいずれ二人を分つようになるとしても、今を一番大事にしたいと思った。
もしかしたら、もっと一緒にいたいと思うようになるかもしれないという希望も込めて。

「それでいいじゃない。それが恋愛でしょ。二人がそれでいいならいいとおもう。」

「・・だよね。間違ってないよね。」

「生きてく長さなんて関係ないさ。人間の恋愛だって同じようなもんよ。むしろもっともろいかもしれないわ。」


「今を楽しむのが一番だとおもうよ?ていうか。」

静流はニッっと笑いながらぼたんの顔を覗き込む。


「そんでいつからそうなったの、二人の関係は??」


この後小一時間根掘り葉掘り聞かれ、少々疲れの残るぼたんだったがやはりまだ分からない。

なぜ蔵馬が残香を残したのか。

単なる偶然?それともわざと?

今日夜中にあったら教えてくれるだろうか?聞いてもいいのだろうか?

しばらく考えたがやっぱり聞くのはやめておこうとおもう。

せっかくだからいい意味で取りたい。

わざと自分に残香を残したのだと。


End


■あとがき■
無理やり終わらせました・・。
実はこのネタ、5月くらいからあって、途中まで書いて放置していたんです。
オチがまったく浮かばなくて。
やー、ほんと無理やりですね・・。すみませ・・・orz